2003.07.25
日本にチップ制は馴染むか
日本では、「謙譲の美徳」という言葉がある通り(もう死語ですか?)、相手に対する思い遣りは「自分が引き下がること」で表現する、という婉曲な手法が中心でした。これは西洋のサービスが「私はあなたにこういうサービスを行いました」と、押し付けがましいくらい主張してくるのに比べて正反対の方法です。
そこで飲食店のサービスについての議論にしばしば出てくるのが「欧米のチップ制を導入すればサービス技術の向上に役立つ」という意見です。確かに、欧米では店側からもらっている給料よりも、チップでの収入の方が多い従業員も数多くいるということですから、こうしたチップのシステムが飲食店などのサービス向上に一役買っているに違いありません。
しかし、それでは日本には「チップ」が存在しないのか、というと決してそうではありません。かつては日本でも「御祝儀」もしくは「心付け」といった名称の「チップ」が存在していたことは、恐らく年輩の方なら、皆さんご存じだろうと思います。
確かにこれは、「従業員個人に渡すもの」というよりも「店に渡す」というニュアンスが強いものでしたし、飲食店を利用するすべての人々が行っていたわけではなく、遊び慣れた一部の粋人などを中心にした行為であったかも知れませんが、例えば旅館などに泊まるときは今でも、部屋へ案内してくれた仲居さんに「心付け」を渡すという慣習があるのは、たいていの方はご存じでしょう。
いずれにしても、こうした習慣は、「納得のいくサービスの対価として、店側が提示する料金以外の金額を個別に支払う」という意味ではチップに近いものであったと思います。